当時、厚生労働省では、長時間労働撲滅を目的とした働き方改革、国土交通省では運行の安全を目的とした確実な点呼の実施がクローズアップされ、弊社においても、グループ直営業務のブラックBOX解消、管理監督者の業務見直し、合理的な働き方を目指す課題があり、また、経営方針の一つとして、グループ直営自動車8,000台体制に向け、24時間/365日体制の顕在化が予測され、対面が基本となる点呼業務に関する課題が予測されていました。
また、京滋主管支店では収支面で低下していた時で、『何か新しいことに取り組まないと事業の拡大はあり得ない』との方針もあり、将来に向けた新規事業プロジェクトを発足しました。定例会議を開催していく中で、同支店管轄内で少数拠点で連携していた『IT点呼事業』がプロ ジェクトメンバーから提起されました。
IT点呼事業については、本社に上程され事業化を進めることになりましたが、その当時、恥ずかしいことに管轄拠点事業所の一部の管 理監督者による『なりすまし点呼』、『タイムカードの改ざん』、『連続出勤による超長時間労働』という問題が発生、車両事故も多発していた こともあり、他拠点とのIT点呼の連携を進める前に、先ずは『自拠点の 点呼体制の整備と運行管理体制の強化をしなければ…』と考えるようになり、『その改善効果を他拠点に展開が出来れば…』との考えに至ったことが、積極的にIT点呼の拡充に取り組むきっかけになりました。
当時、弊社のグループ会社(地域センコー)では、小規模店所が多く、 深夜・早朝、休日の点呼者確保に苦慮しており、管理監督者が出勤対応したり、高齢のOB採用等で対応しても退職リスクもあり、点呼体制が不安定である課題がありました。センコー株式会社の各事業所は、IT点呼の連携により同様の課題を解消したこともあり、グループ間IT点呼の実現による課題の解消を構想、2015年4月に点呼システムを開発と運用の構築、2016年1月に国土交通省様へグループ間IT点呼実現への規 制緩和の陳情をはじめ、2017年4月に全ト協様、大ト協様を通じて業界全体の要望として、2022年4月の実現まで国土交通省様へ継続して働きかけました。
苦労した点ですが、はじめの陳情から6年が経過したこと、集中点呼センター拠点側の点呼者の採用と確保が挙げられますが、何より一番苦労した点は、その間、グループ会社である地域センコーの管理監督者に多大な業務負担をかけたこと、遠隔点呼(グループ間IT点呼)の実現による課題解消を構想した改善が進まなかったことです。
一番のメリットは、管理者の点呼業務時間削減による本業回帰と長時間労働の削減です。IT点呼と遠隔点呼の連携を進めるため一番はじめに実施したことは、車両事業所の抱える課題の調査です。どの事業所も管理監督者や点呼者の長時間労働、不安定な点呼体制による点呼の未実施等、同じ課題を抱えていたので、そのニーズ(課題)を集中化して取り込めたことは、センコーグループ共通のメリット(効果)だと思います。また、IT点呼、遠隔点呼を連携した後に、相手事業所の管理者に感想を聞いてみると、『やっと連休が取れる!』、『超勤が減った!』などの声が聞かれました。
また、運転手さんから 『以前は、休日の自分の運行で管理職が出勤することに気を使い、運転に焦りを感じることがあったが、 今はいつの時間でも点呼者がいると思えるので、運転に焦ることが無 くなって良かった。』との声も聞かれました。 その他、色々とメリットはありますが、健康であれば70歳まで働ける仕事があるのは、会社的にも、従業員的にも良いことだと思っています し、規模の大小問わず新しい事業の立ち上げに若手の従業員に参画してもらうことは、自身の成長と働き甲斐を感じられる良い機会だと思います。
デメリットではありませんが、IT点呼と遠隔点呼の連携を進めている時に、事業所の運行管理体制の全てを含めた依頼をされる事業所がありました。その時は、点呼は運行管理の手段の一つなので、運行管理体制は事業所で構築して頂くように説明をしましたが、点呼と運行管理の区分を明確にしないと、間違った方向に進み兼ねないと感じました。社内ルールによる業務区分の明確化、運行管理規程の整備が必要です。
遠隔点呼(グループ間点呼)は、2024年問題、人手不足の解消に繋がると思っています。そう思う理由として、IT点呼は、同一法人、閑散時 間16hの制約がありますが、遠隔点呼(グループ間点呼)は、資本出資 100%のグループ会社であれば、時間制約が無く24h可能です。また、 IT点呼はGマーク取得の優良事業者に対するインセンティブで、対面に よる点呼と同等の効果を有する『疑似対面点呼』と位置づけされていますが、遠隔点呼は、点呼者と運転手の生体認証により『対面点呼』として位置づけされており、Gマークも不要で比較的スムーズに導入することが可能です。このことから、国土交通省様もAI活用によるロボット点呼の実証実験や遠隔点呼(グループ間点呼)の更なる拡充と点呼業務の効率化に向けた議論をされているとお聞きしていますので、今後の展開に注目しています。
個人的な意見になりますが、遠隔点呼の拡充に向けた様々なロジックや定義、機器の設備的な基準をクリアすれば、将来、運行管理に関する知識、資格があれば個人で請け負うことも可能だと思いますし、トラ ック、バス、タクシーの『点呼』を一元化すれば、人手不足の解消にも繋がります。また、2024年問題は運行管理(時間管理)の高度化がポイントになるので、遠隔点呼(グループ間点呼)の拡充が、問題解消の一つになると思います。
『近畿エリアでは業界初となるグループ企業』ということが理由かは分かりませんが、2023年度上期に国土交通省様の遠隔点呼推進担当者 様との意見交換や弊社グループと協業している協力会社様から、IT点呼や遠隔点呼(グループ間点呼)の導入や拡大について、プレゼンする機 会を頂きました。このような機会は、情報交換に大変貴重な機会ですので、今後も大切にしていきたいと思います。 弊社に限らず運輸系の企業様は、2024年問題、人手不足等に対して、 共通の課題を思っておられることを再認識していますので、先ずは、センコーグループでの連携を積極的に進めようと思います。また、点呼に 対するBCPの観点から、集中点呼センターの拠点を増やすことも視野に入れて、弊社の本社安全環境管理部と検討しております。
私見になりますが、弊社の主管支店管轄11拠点のブロック毎に集中点呼センターを配置することがベストではないかと考えています。それぞれの拠点には、協業している協力会社様もおられますので、遠隔点呼の要件拡充が進めば会社の垣根を超えた点呼体制も出来る可能性もあります。環境、運行に関する安全基準の平準化や健康、教育に関する情報の共有や一元化が出来ればトラックによる事故も減るのではと思います。発想の転換と法整備が必要になりますが…。
長時間労働の削減を目的とした働き方改革、運行の安全を目的とした確実な点呼の実施、合理的な働き方を目指した業務の見直し、DXの推進等、IT点呼・遠隔点呼(グループ間点呼)をキーに、業界全体の課題である2024年問題、人手不足の解消に向け様々な取り組みの拡大にも繋がると思います。
共同点呼の実施に向けた検討も考えております。現在の詳しい情報 は持っていませんが、2024年4月1日から施行される改善基準改正により、地場・中長距離輸送に関係なくモーダルシフトや中継輸送やドッキング輸送が増えてくると予測されます。すでに輸送の切り替えを活発に 進められている環境下にありますが、それには、中継輸送のハブ拠点を設ける必要があります。そのハブ拠点には様々な運送業者が出入りしますので、ハブ拠点にトラックステーション的な機能を持たせることにより、共同点呼のノウハウも活かせる場面もあるのではと考えます。
近年、トラック運送事業者も軽油価格高騰、人件費高騰、人手不足による倒産件数が増加、M&Aにより合併やグループ参入、業界にアライ アンスの波が押し寄せています。そのような厳しい業界の環境下でも 『点呼』は運行の安全には欠かせないものでありますので、その事業所、 会社の状況や環境に応じた色々な点呼を(対面点呼、IT点呼、遠隔点呼、 自動点呼、共同点呼)選択もしくは連携することが出来ればと思っています。
今後も、『働き方改革』、『運行の安全』を目的に、点呼の確実な実施に向けた体制とトラック業界の点呼体制づくりを微力ながらでも進めて参ります。その為には国土交通省様をはじめ、各運輸局・各都道府県運輸支局様のご教授、ご指導が無ければ成り立たないと思っております。そして信頼の置ける機器と手厚い保守サポートのある東海電子とも連携を取りながら、積極的に時代に沿った機器の導入をしていきたいです。